劇団ひとりの「マジ映画」『晴天の霹靂』

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「青天の霹靂」予告 - YouTube

 

 劇団ひとりの初監督作。地元のシネコンで初日の初回に鑑賞。朝8時台の回でも3〜40人ぐらい入ってたのでそこそこの賑わいだった。

 あらすじに関しては予告を見れば十分すぎる程分かるので省くが、一言でまとめるなら『素晴らしき哉、人生!』×『BTTF』in70年代浅草といったところ。人生に絶望した主人公が過去へのタイムスリップを通じて自らの存在意義を見いだす話と言ってしまえば、ありきたりな人生讃歌に聴こえてしまうかもしれない。しかし、そのような定番の寓話を劇団ひとりは初監督作で一段上に昇華している。

 近年、人間ドラマを描いた邦画の多くが上映時間120分を超えることが多い中、本作はなんとわずか96分にしか満たない。これらを可能にしたのは本作のモチーフである「手品」を最大限活用することで画面内の情報量を圧縮し、無駄なシーンは全て切り捨てることに徹した劇団ひとりの確かな演出力*1だろう。オープニング、大泉洋演じる主人公晴夫がトランプを使ったテーブルマジックで自分の半生を語るシーンや、父と息子の相似性を浮かび上がらせるコインマジックなどを通してストーリー上必要な情報をより少ない手数で説明できている。また、「タイムスリップ」のジャンルではお決まりな『未来予知』もクライマックスへときちんとつながるように計算されているので一切無駄が無い。

 演出ももちろんだが、脇役のキャスティングもしっかり計算されている。『桐島、部活辞めるってよ』の映画部顧問、主人公前田の同級生武文をそれぞれ演じた岩井秀人と前野朋哉を先輩芸人として配置して何とも言えない「ボンクラ」感を、また、晴夫が働くマジックバーの店主をナポレオンズが演じることでマジック人生の「どん詰まり」感をそれぞれ表現できているので説明がいらないのだ。

 このようにスマートな話運びを可能にしているのはガッチガチに固められた脚本にも理由がある。当初はプロデューサーの川村元気劇団ひとりの二人で脚本を練りつつも後半の展開で行き詰まってしまったため、急遽助っ人として『僕の〜』シリーズや『フリーター、家を買う』の橋部敦子が加わった。製作期間は2年以上にも及び、20稿を数えたという。そのため、若干話の構造が固すぎると感じられる部分もあるかもしれない。

 以上のように一切の無駄を省きながらも、自らを悲劇の主人公だと思い込むことで自我を保ってきた晴夫が真実を知ってしまうことで錯乱に陥るシークエンスなど見せるべきシーンはじっくりと長回しで見せるメリハリの効いた演出も光っていた。特にクライマックスの病室での会話は本作の白眉。

 ミスチルの主題歌も、映画のテーマを母へ向けられた息子からの視線で描いた内容*2で、エンドロールの余韻も楽しめた。

 たった96分なんだから、観ても損は無いと思うよ!

  

 

*1:フランケンシュタイン』×『阿藤快』のテーマでミュージカルを作れてしまう程

*2:亡き父への思いを歌った「花の匂い」と好対照。ちなみにミスチルによる東宝作品への主題歌提供は3年連続