あざといことしなくてもいいとわかっているのになぜしてしまうんだろう Base Ball Bear『二十九歳』

 

二十九歳(初回限定盤)(DVD付)

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  Base Ball Bear5枚目のフルアルバム。結論から言えば素晴らしかった。前作『新呼吸』からベスト盤、他アーティストとのコラボなどを経て、生み出された本作のテーマは「普通」。「善と悪」や「希望と絶望」といった二項対立のどちらかに振り切るのではなく、その中心を淀む「普通」にこそ物事の核心があるとする小出の思想が全曲に散らばれている。例えば、ある曲で結ばれた二人が次の曲で別れを迎えていたり、同じモチーフである2曲がもつ意味の重層性などなど練りに練られた曲順でリスナーを翻弄したかと思えば、最終的には極めて生々しい小出の心情吐露にまで振り切る。しかし、本作はそこでは終わらない。一種照れ隠しにも近いラスト『カナリア』で本作はこう締めくくられている。

あざといことしなくていいとわかっているのになぜしてしまうんだろう

(中略)

帳尻あわせて折り合いをつけつづけてさ

それでも 自分を信じられることがあるから

救われるよな 

カナリア

 曲の中やアルバム全体での入れ子構造が緻密に計算された作品なため、全曲通しての鑑賞が必須だろう。以下で各曲の感想や自分なりの解釈を書いていこうと思う。

1『何歳』

 アルバム全体のテーマが明示された一曲。メロディは『初恋』に近い部分もあるが、ベボベらしいギターロックで「澱みからメロンソーダ」を表現する覚悟を強く印象づける。

2『アンビバレントダンサー』

 覚悟がいきなりブレる。前曲の意思表明が一転、今度はひたすら二項対立の間で揺れる。

 辿り着けない日常 to 日常

 朝夜朝夜朝がシームレス

 辿り着けない日常でゆれてる

アンビバレントダンサー』

  このように前曲で提示されたテーマが次曲以降でひっくり返されるのが本作の特徴であり、インタビューでもこのように語られている。

「だいたい2曲で1コみたいなペアになっているんですよ。そういう二重構造、三重構造のオンパレードで、今回はそういうレイヤーを入れていかないと、自分の表現したいことがきっちり表現できないなぁと思ったんです。」 ROCKIN'ON JAPAN 7月号 P239

   曲は『十字架 You & I』に通ずるファンクロック。カッティングが心地良い。

3『ファンファーレがきこえる(Album Mix)』


Base Ball Bear - 「ファンファーレがきこえる」&「日比谷ノンフィクションⅢ」ダイジェスト ...

 既発シングルのアルバムミックス。ここまでの前半3曲が「日常のアンビバレント」ブロックと言えるだろう。29歳目線のフラットな価値観の中で答えを出す難しさや「理想と現実」の狭間の重さを噛み締めているからこその表現が素晴らしい。シングル盤よりもベースが強調されたミックスであり、後半大サビ以降のベースフレーズは一聴の価値有り。

4『Ghost Town』

 現実を噛み締めた上での夢や理想を追い求める尊さを歌った前曲からまた一転、今度は閉塞感だらけの地方都市からの脱出がテーマ。夢を追い求めた同級生が停滞した地元に飲み込まれていく恐ろしさを目の当たりにして、「ここではないどこか」を夢見る主人公。同じく地方都市からの脱出と言えば『悪の華』(中学生編)が思い出される。

5『yellow』

 春ツアーで先行披露されていた1曲。アイドルに恋心をよせる男の歌だが、次曲とのつながりや最近の小出周辺の交友関係を考えると色々と邪推してしまいたくなる内容。

6『そんなに好きじゃなかった』


Base Ball Bear - 「そんなに好きじゃなかった」 Music Video - YouTube

 『yellow』と同じく春ツアーで先行披露されていた楽曲だが、とにかくネタが多い。まずアルバム内でのつながりだと、『yellow』でおそらく結ばれた二人が辿る運命を毒気たっぷりの歌詞で歌い上げニヤリとさせられる。

 曲単体だとPVが同じくスゥインギンな曲調である斉藤和義の『ずっと好きだった』のオマージュになっていたり、後半小出が手にするテレキャスターの色がPVの監督であるねむきゅんのイメージカラー(ミントグリーン)だったりと色々と小ネタが多い作品。

7 『The Cut -feat. RHYMESTER-』

8 『ERAい人』

 RHYMESTERとのコラボ曲。シングルよりもギター、ベース及び全体のサウンドを歪ませて前面に出すことで曲全体の”攻撃力”が増した印象。続く『ERAい人』は『The Cut』の延長線上であり、アルバム中最もカオスな一曲。

9『方舟』

 『ERAい人』のカオスから今度は孤独に海を漂う船を描いた『方舟』。社会への敵意むき出しの前2曲からの反動か、この曲では何物にも馴染めない救命ボートの孤独を通して自らとその他のギャップに悩む心象風景が描かれる。

10『The End』

 タイトルとは裏腹。アルバムはまだまだ終わらない。曲中の主人公も同様、魔王を倒して宝を持ち帰ったらそれで終わりなのではなく 、その後も生活は続くのだ。

ラストシーンはスタートラインでしかない

「昔々の話」じゃない

僕の人生はつづくつづく

『The End』

11『スクランブル』

 アルバムのテーマが繰り返される。曲調は全く違うものの、歌詞の構成だけを見るとイエモンの『I CAN BE SHIT MAMA』を思い出す。ただ単純に両極の真ん中を捉えるのではなく、その間を漂う澱みを救う難しさが切々と伝わる。

12『UNDER THE STAR LIGHT』

 超絶早弾きから始まるベボベの十八番高速4つ打ちギターロックだが、とにかく音数が多い。その上、Aメロの語尾が全部「〜駆け抜けた」になっているように歌詞の語感も相まって気持ちいい疾走感溢れる一曲。『yellow』や『スクランブル』との歌詞の対比もあって興味深い。

13『PERFECT BLUE (Album Mix)』

 爽快な曲調とは裏腹、少女の死がテーマになっている一曲。既発シングルの中では最もミックスが変えられているのか、とにかく音が厚くなっている印象を持った。ラストの「もうすぐ夏が来る」のフレーズは、次曲の『光蘚 (Album Mix)』が『悪の華』コンセプト盤への提供歌であることへの目配せだろうか。*1

14『光蘚 (Album Mix)』

15『魔王』

 アルバム中最大の山場。『光蘚 (Album Mix)』と『魔王』の15分間のために今までの13曲が並べられたといっても過言ではないだろう。2曲に共通するモチーフは「光射す丘に立つだれか」である。

光が差し込むあの丘には 君がいる

光を浴びたい だけど行けない 君がいる

『光蘚 (Album Mix)』

光射すあの丘に

旗を立てた彼のように

なりたい でも なれない

それじゃ、僕じゃないから 

『魔王』

  ここでインタビューを引用したい。

「僕が今回テーマにしてたのは、〜『表裏一体』っていうのがずっとあったんですよね。なんですけど、サカナクションの『sakanaction』問題っていうのがあって(笑)」MUSICA Vol86 P103

「(光蘚について)初めて本心から書けた歌詞なんですよ。って思ってたら、めちゃめちゃゲスで醜くて、『こいつ、なんて奴だ』って思ったんですよ(笑)」

MUSICA Vol86 P104-105

 以上から分かるように、その「だれか」がサカナクション山口一郎であることは明白であろう。『kiminome』の共作から4年、MUSICAでの巻頭対談から3年の間に山口率いるサカナクションは幕張2DAYSに紅白出場、そして傑作『sakanaction』の発表など名実共に「光射す丘」に 立った。

 それに対しての羨望や自らの憤りを一種露悪的なまでにぶちまけた『光蘚』からシームレスで『魔王』に曲は移る。『光蘚』では自らを光に対する苔であると宣言し、続く『魔王』では苔である自らを受け入れ、清濁飲み込んだ自らと対峙し続ける強い決意を高らかに歌い上げる。全否定でも全肯定でもない。全てを受け入れ「普通」でありつづけることが最大の狂気なのだ。

 最大のカタルシスである『魔王』後半の転調は何度聴いても鳥肌が立つ。湯浅のギターソロ。関根嬢のコーラス。全てが気持ちいい。

いないことにされてた 僕の呪いが

君の傷を癒す お呪いになりますように

『魔王』

15『カナリア

 ホリのふざけたカウントで始まるカントリーナンバー。シリアスに振り切った流れをひっくり返す程にゆるい演奏でアルバムは幕を閉じる。アルバムは終わっても日常は続いていくのであり、最後まで明確な答えを与えられることはない。それでいい。

 

 幾多の問題提起や伏線、隠喩が詰め込まれた本作を味わい尽くすのにはもう少し時間が必要なのかもしれない。

 あ〜〜、はやくライブ観たい。

*1:悪の華』では夏休み、そして「夏祭り」がストーリー上重要な場面となっている。