泣いてもいいんだよ『幕が上がる』

 

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ももいろクローバーZの青春映画!『幕が上がる』予告編 - YouTube

 自分はももクロが「ももいろクローバーZ」に改名して間もない2011年夏からのももクロファンだ。

   また、本作の脚本家である喜安浩平の「桐島、部活やめるってよ」が生涯ベストである自分にとって、「主演:ももクロ✖️脚本:喜安浩平」の文字を見たときの期待度は最高潮だった。

 しかし、一言で本作の感想を言うとすれば「安易にアイドルをダシに使った本広監督の自己満足映画」としか思えなかった。

 例えば、中盤に演劇部員たちが挑戦する『肖像画』。「自分と両親」をテーマに一人芝居をするという難題を、部員役を演じるももクロ自身が挑む2重構造の設定は面白いし、メンバーの演技も拙いながら説得力のあるものだったと思う。

 しかし、その後の展開で彼女たちの劇中での両親として登場する人物が悉く安易なカメオ出演者で固められているため、物語自体の説得力もなくなり、こちら側が真面目に観るのが馬鹿らしくなってしまった。

 また、同じ喜安脚本『桐島、部活やめるってよ』の屋上での前田と宏樹のラストシーンを思わせる、海岸でのカメラを通じた杉田先輩とさおりの「なぜ演劇に取り組むのか」についてのシリアスな会話劇の直後に、職員室でモノノフである三宅アナがズカズカとこれ見よがしに歩き回る姿を観てどうしろというのか。

   これだけでなく、あーりんにケーキの被り物をさせたり、メンバーが自分の色のドリンクを飲んだりといったももクロファンへの小ネタが挟み込まれる度に、本広監督の「どうだい?僕のももクロ愛?」としたり顏で語る姿が浮かんでくるため、後半は怒りしか湧かなかった。

 そして、ラスト、夏菜子演じる演劇部長さおりが遂に「自らが作り上げた世界を共有する」、正しく”幕が上がる”瞬間に映し出される、客席に並んだカメオ出演者たちの姿に絶望し、映画館を後にした。

 映画を観ながらここまで怒りが湧いたのは人生で初めてで、ももクロが頑張れば頑張るほど下品な演出で台無しにされる悔しさで本当に辛かった。

 どうしてここまで自分が本作に怒りを感じるのかを3つのポイントで論じたいと思う。

1.演出の稚拙さ

 「演劇」をテーマにした映画である時点で「演劇」と「映画」という異なるジャンルの芸術を融合させるために高い演出力を求められるのは言うまでもない。特に「演劇」では基本観客の視点は引いた画から自らの興味の向く箇所に視点を移すことで成り立っている。そのような「演劇」の鑑賞スタイルに対して本作は移動カメラの多用で成立させようとした。例えば『肖像画』のシーンでは中心に俳優が立ち、それを取り囲むように車座で観客が座り、さらにその周りをレール付きカメラが動き回ることで撮影している。このような撮り方がどのような効果をもたらすかといえば、常に画が止まることが無く、観客に映像的な高揚感を与えることができる点が挙げられる。しかし、裏返して言えば、そこに映し出される俳優の演技を蔑ろにし、本来その場面で映し出されるべき緊張感を削いでいるとも言える。そのため、演劇部員、ひいてはももクロメンバーの実際の演技力がどれぐらいのものであり、それが高校演劇部全国大会に足る実力なのかがイメージできない。作中で何度か挟み込まれる実際の高校演劇の映像が全て固定カメラなのとは対照的である。

 同じく彼女たちの演技を蔑ろにしている演出という点ではナレーションの多用が挙げられる。そもそも原作が主人公さおりの一人称視点で語られているため、多少のナレーションは許容できる。しかし、劇中の会話シーンの中でも心の声が実際のセリフに被さるように使われたり、さおりの心の声と吉岡先生が勝手に会話を始めてしまうほど多用されてはたまったもんじゃない。特に美術室で”学生演劇の女王”であった吉岡先生が部員達に『肖像画』の演技を見せて圧倒させるシーンは「演技の素晴らしさに圧倒される部員たち」の姿をただ撮れば良いものを、わざわざ心の声で「圧倒された…」とご丁寧に説明してしまうんだから興ざめも良いところだ。

2.「吉岡先生」問題

 本作での演劇部最大のゴールは「全国大会出場」だ。彼女たちがこの目標を描いたのは吉岡先生がきっかけだった。彼女は学生時代、”学生演劇の女王”として活躍したが大学卒業後地元に帰省し、高校の美術教師になった。最初は見学という形で演劇部の指導を受け持った吉岡先生だが、『肖像画』での彼女たちの頑張りに奮起し、「一緒に全国目指してみない?君達なら行けるよ!」と演劇部員の心に火をつける。そして「全国を本気で目指すなら、人生を狂わせてしまうこともあるかもしれない。私は責任をとれないかもしれない。それでも良い?」と彼女たちに演劇への覚悟をさせる。夏の東京での合宿では、新宿の高層ビル街に部員たちを連れて「見て。この灯の数だけ夢を持って東京に出てきた人たちがいるの。それって心強いと思わない?」と彼女たちに淡い夢を見させる。そして合宿の最後、部長のさおりは吉岡先生に「先生、責任なんて取ってもらわなくていいです…わたし、人生狂っても良いです!」と力強く宣言する。

 しかし、後半のある事態で物語は急転する。文字通り、吉岡先生は責任を取らずに、部員たちの人生を狂わせた。はっきり言って自分には彼女の行動原理が理解できない。 東京で夢破れた教師と上京を夢見る生徒を描いた傑作『おとぎ話みたい』の言葉を借りれば、吉岡先生は正しく”出戻り文化人”だろう。しかも、自分の夢へのケジメもつけられないだけでなく、あまりに残酷な形で生徒を裏切った。また、彼女自身が葛藤する場面もほとんど描かれないため、ただただ憤りしか感じられなかった。

3.過剰な小ネタ・オマージュ

 確かに本作の主演はももクロだ。だからといってももクロにまつわる小ネタやオマージュを多用するのは、作品の世界観を壊すだけではなく、彼女たちの努力自体も消費するということではないか。以下、列挙。

・焚き火でさおり(夏菜子)の持っている台本が『ウィンタータイムマシンブルース』


Summer Time Machine Blues Trailer - YouTube

・明美ちゃん(あーりん)がケーキの被り物で登場


11.だって あーりんなんだもーん -2011.06.12- - YouTube

・ゆっこ(しおりん)の父親が天龍

→去年の桃神祭で天龍がゲスト出演

・職員室にフジの三宅アナがいる。

→モノノフを公言。ライブでも何度か登場

・図書館の本棚に『ゴドーを待ちながら』がある

喜安浩平の前作『桐島、部活やめるってよ(脚本)』の元ネタ

・さおりの演出ノート

夏菜子の国立川演出ノート?

・さおりの漢字間違い

夏菜子のおバカキャラ

・明美ちゃんの父親が松崎しげる、母親が辛島美登里

→二人ともライブで共演済み。特に松崎しげるはメンバーから南国ピーナッツと呼ばれている。

・さおりの『肖像画』でバスケの話

夏菜子はバスケ経験者

・がるる(れにちゃん)の祖父が笑福亭鶴瓶

→レギュラー番組で共演。去年は夏菜子が『スジナシ』に参加

・下校シーンで唐突にゆっこが「ハラヘッター!」と叫ぶ


Z伝説~終わりなき革命~/ももいろクローバーZ ドラマ無し Full ver.(Z DENSETSU ...

・さおりの夢シーンでうどん脳が登場

→本広監督の出身地、香川県のマスコットキャラ

・さおりに渡されたメロンソーダを中西(杏果)が飲む

→杏果のイメージカラーが緑

・中西が転校した理由の一つに「滑舌の悪さ」

→実際に滑舌が悪い

・溝口(ムロツヨシ)が吉岡先生に”肩の柔らかさ”アピール

→自身のラジオで自分のアピールポイントとして話していた。

・東京の小劇場でさおりと杉田先輩が話すシーンで平田オリザ人形が運ばれている。

→言わずと知れた原作者。ロケ地のこまばアゴラ劇場支配人

・吉岡先生の演劇仲間のグループに高橋栄樹監督がいる。

→『DOCUMENTARY of AKB48』シリーズ監督。去年、今年と本広監督主催のさぬき映画祭にも参加

・さおりとゆっこがホテルのシングルベッドを共有する。

→『シングルベッドはせまいのです』(ももたまい)

・ゆっこと中西がそれぞれ緑、黄色のペンキで大道具を塗っている。

→それぞれのイメージカラーを互いに使うことで仲直りの表現(?)

・吉岡先生からの手紙をさおりが受け取るときのBGMが『行くぜっ!怪盗少女!』

→『あかりんへ贈る歌』だとも考えられる

・大会前夜での教室のBGMが『あの空へ向かって』

・ゆっこのお姉さんがゆみ先生(ももクロ振付師)

・その旦那が佐々木敦規(演出家)

その前列に座っているのがたこやきレインボー

 多分もっとあるはず(楽曲ネタは10曲近く仕込んでいるらしい)だけど気づいたところまで。

 日曜日に本作を鑑賞してから「青春映画の傑作!」「アイドル映画の新次元!」と評価するネット上での声を見るたびに、その評者達にとっての「青春映画」や「アイドル映画」って一体何なんだろうと死んだ目をしながら過ごした一週間だった。

  作品に真面目に向き合おうとせずに安直な笑いに走る姿はももクロに失礼、演劇に失礼、そして映画に失礼だ。本広監督の罪は重い。

 

PS:本論とは関係ないけど、その他雑感をどこかに吐き出さないとつらくてしょうがないため以下箇条書きで失礼します。

・Before『ウィンタータイムマシンブルース」→After『銀河鉄道の夜』のどちらもしっかりと観せてくれないため、彼女たちの演劇部としての実力がはっきりしない。

→ググったら『銀河鉄道の夜』のフルverがあった!なんでこれカットしたんだよ!


映画「幕が上がる」 劇中劇 銀河鉄道の夜 - YouTube

・序盤のナレーション多用は夏菜子の演技が拙いこと、感情を表に出せないさおりへのフォローで後半に行くにつれて彼女が部長としての自覚を持ち、自分自身の声で語り始めることの表現なのかもしれないけどそれでも煩すぎる。

・さおりが演出に関して苦労する場面が少なすぎる。演出ノートや台本ってあんなにスムーズに書けるものなのか。

・さおりの漢字間違いネタは明らかに不要。その後の物語もただのバカが夢に感化されて自己陶酔しているようにしか見えなくなる。

・中西が転校した遠因が「本人の滑舌の悪さ」だとする演出でも下品なのに、その後の合宿で天龍の滑舌ネタをギャグとして持って来る辺り無神経としか言えない。

・三宅アナの持っているグッズから、この物語は”ももいろクローバーZ”が存在する世界の出来事である事がわかるけど、そこで劇中曲やBGMにももクロの曲を使われると興ざめ。

・後半の美術室でのさおりによる演説シーンは「国立競技場での夏菜子のラストスピーチを基に演出を加えた。(本広監督談)」そうですが、返って芝居がかった妙なバランスに感じてしまった。

・エンドロールの「走れ!」も原曲よりキーが高く、低音がキツくなったアレンジが作品世界と合っていない。

・「走れ!」を大サビ前で切る理由がわからない。後味が悪すぎる。